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コーマック・マッカーシー「越境」 ー もはやロマンとかの枠にない放浪

コーマック・マッカーシーの「越境」、国境三部作の2作目で650ページの大作です。面白かったから2日で読み終わったけど、内容はかなり哲学的で、登場人物の語る内容を細部まで読み解こうと思えばそれなりの時間がかかると思います。

越境 (ハヤカワepi文庫)

越境 (ハヤカワepi文庫)

 

 

国境三部作について

 コーマック・マッカーシー初期の長編である「すべての美しい馬」と続く「越境」「平原の町」を合わせて国境三部作と呼ばれています。「すべての美しい馬」と「越境」には直接のストーリー上のつながりはありませんが、「平原の町」は前2作からの続編のような作りになっているようです(まだ読んでいません)。3作とも読むつもりなら順番通りに読むほうが良いでしょうし、試しに1作だけということなら個人的には「越境」をオススメします。ただし長いです。

構成について

 舞台背景は第二次大戦直前の南部アメリカ及びメキシコです。メキシコの荒原を行く、というとジャック・ケルアックの「路上」のような放浪のロマンを連想しそうですが、コーマック・マッカーシーがそこで書くのは暴力や運命の不条理、そういったものを包含する世界と個人がどう関与していくかといった明らかに形而上的な問題です。

暴力や運命について

「越境」で描かれる運命の不条理や暴力は、主人公が出会う多くの人物によって語られます。それは大事な人間の喪失や自身が受けた暴力に付随して、無意味に行使された残酷さに関するものです。これらが神の思惑や人間の悪に関する問題として提起され、残された者はその証言者としてただあり続けることになります。

この世界で起こる出来事は世界それ自身と無関係ではあり得ない。だが世界それ自身はその時々の出来事に判断を加えることはあり得ない。砂漠で軍隊が動くのも砂が動くのも同じことなんだ。どちらのほうがいいなどといえるものじゃない。 P.225

ああいう残忍な人間が実際にいるんだよ。ひとの目玉を吸い出すような男が。あの手の輩はいくらでもいる。この世界からいなくなってしまったわけじゃない。いなくなってしまうことは絶対にないだろう。 P.455

 ストーリーについて

 「越境」は大きく分けて2段で構成されています。序盤では、農園を荒らす狼の話を軸に展開されるのですが、その後ストーリー的な展開はかなりの変化を見せます。暴力や悪の存在、それらを包含する世界との関与といった主要な問題はむしろストーリーの展開後に前面に出るようになります。なので長い話とはいえ緊張感を維持したまま読むことができるはずです。

総評

 600ページ超えの長い小説であることと、形而上的な問題を扱う中で難解な部分もありますが、とてもいい小説だと思います。