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ジュノ・ディアス「オスカー・ワオの短くも凄まじい人生」 ー 軽い気持ちで読み始めたら傑作だったという時がある

ジュノ・ディアスは村上春樹がエッセイで評価していたのもあり、読もう読もうと思っていたのですが、文庫化されておらず、なかなか高価なことから手を出せていませんでした。内容的にはレビューなどから、アメリカのナード(いわゆるオタク)文化がテーマのようだし、ポップな話なのだろうと予想していました。ところが実際に手にしてみると、途中から傑作の雰囲気がどんどん漂ってきます。終わりの頃に明らかにはすごいものを読んだという気持ちでした。

 

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)

 

 

 主人公のオスカー・ワオがいわゆるオタクで、登場人物の内面を抉っていくスタイルの小説なので、結果的にナード文化は小説の中の主要な要素の一つではあります。でも、僕もレビューをざっと見て誤解したのですが、ナード文化を描くために小説が存在しているようなものではありません。というか、ナード文化に触れなくても、十分に傑作だっただろうと思います。それでも、オスカー・ワオがナードであることで、個性にリアリティが付与されています。主人公はマイノリティの塊のような人物です。ナードで、ドミニカ系アメリカ人で、不細工なデブで女の子にモテず、でも女の子と付き合いたくてしょうがない、激しい性格を持った一族の中で、唯一と言っていいくらい穏やかで優しい気性の持ち主です。こう書くと、やっぱりナードの話じゃんってことになりそうですが。

 読んでいて途中で気がつくのですが、この小説は主人公の一代記だけでは収まりません。主人公の姉や母、(事実上の)祖母、祖父を中心にしたストーリーが、時系列をバラバラにして作中に挿入されています。そうした全ての人たちが、主人公の人生に影響を与えているのです。主人公の、時に読んでいて苛立つほど融通の利かない性格も、一見するとオタクに特有のもののようですが、実際には血縁的に固有の性格傾向だとも言えるし、呪いと表現される一族につきまとう影も祖父の決断から生じたものです。

 

感想を表現するのが難しい

 

 本当はいろいろと書こうと思っていたのだけど、書きにくい小説です。技法的には「百年の孤独」が近いようにも感じたのですが、なんというか、なんらかの枠を当てはめない方がいい小説のように思います。おそらく明らかなのは、読んでいるうちに主要な登場人物のいずれのことも好きになるだろうし、最後のシーンでは異様な感動があるのではないか、ということです。間違えて絶版になったりしないように、みんなに読んでほしいです。