シャーリイ・ジャクスン「くじ」 ー 心に引っかかるという意味ではこの上なく引っかかる

シャーリイ・ジャクスンは「居心地の悪い部屋」というアンソロジーを読んで知りました。その時はいろんな作家がいるもんだな、とか、アンソロジーもこういうよく知らない作家を読むきっかけになるだな、などと考えていたのですが、近くの本屋でこの作家の本が平置きされていて驚きました。まだ読める本はたくさんある。

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

  先にあげたタイトルのアンソロジーに収められるあたりからもわかりそうですが、「くじ」はまさに心象的に居心地の悪い20以上の短編で構成されています。胃の底に何かが残っているような、視界の端に何かがちらちら見えるのだけど正面からは見据えられないような、そんな気持ちになります。率直に言えば読むのが大変だった。

 短編集の中では絶えず、弱い人が自覚なく傷つき、ちょっとした思惑の違いで人間同士がわかりあえず、どうということのなさそうな日常が奇妙な展開を見せたりしています。ホールデン・コールフィールドのような思春期の潔癖な心を持っているのなら、読むのが辛いかもしれません。

 話の中では明確な悪意を持ってなされる行為はほとんどありません。徹底的に虐げられる結末もないし、具体に企図される混乱も存在しません。そしてそれが一番タチが悪い。

 ただ、本を読む人の中には、口当たりの良いものだけでは物足りない、という人も一定数はいると思います。心の引っかかりを求めているというか。もしそうならば、この本はこの上ない引っかかりを与えてくれるはずです。読むのに時間がかかりました。なんというか特大級だった。

 

 

 

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)